2008年06月20日

十六夜に哭くは……

果て無く続くかの如く、東西へとのびる廊下……否。
事実、東西どちらに向かおうとも、この廊下が拡がっているであろう……。

天は無明の闇に包まれ、深紅の蝶達が舞い飛び。
地は鮮血の如き水に覆われ、漆黒の蝶達が舞い泳いでいる。

此処は隔離世。
現世と幽世……現実と夢の間。
今は亡き一人の女が夢魅し、新たな儚世。


交わした言葉は数える程度、交えた刃は星の数。
彼等に会話というものは不要だった。

数刻の時が流れた末、女が口を開く。
愛しき我が子に話すが如き口調で……詰り、嗤う。
投げられた声への返答なのか……悦に入った笑みを浮かべるが、言葉が紡がれる事は無かった。


一切の灯りらしき灯りの存在しない廊下。
されど、お互いの姿ははっきりと視認出来る。
それどころか…板貼りの繋ぎ目すら、日光に照らさたか如く映る。


漆黒が風を纏い、一陣の疾風となり駆け抜けた。
爆発的な加速を力へと変換し、蹴り払った相手を一定距離まで吹き飛ばした。

間髪入れず立ち上がる。
今のは流石に堪えた……直撃していれば逝っていたろう。
感覚の戻りきらない腕を気力で操し、再び構える。
先程までとは全く違う構えで、次の瞬間……彼は転じた………。

白銀は闇を纏い、薄汚れた銀細工の様に澱み。
青かった瞳も、今となっては全てが血塗れて見える事だろう。


灰色の四足獣が板張りの地を蹴り、女へと駆る。
一歩踏み締める度に、耳障りな炸裂音と共に板張りの床が爆ぜる。
無軌道なソレを見遣り、女は刃を大きく振り上げ……、迷いなく振り下ろす。
剣圧が津波となり、今まさに女へと肉迫しようとしていた獣を元の位置まで押し戻した。

再度、女は刃を天へと翳す。
しかし、いつまで経ってもソレが振り下ろされる事はない。
女は口を開き、言の葉を紡ぐ。
厳かに……されど、力強き声で……。

女の詠唱に合わせ、周囲の大気が脈動する。
幾つもの旋風が折り重なり、次第にその大きさを増していく。
ある程度の大きさを擁した時、女は刃を眼前にて渦巻く大気へと向けた。

終わらぬ詠唱は紅蓮となり、瞬時に旋風を紅く染める。
視線を獣へと移し、女は表情に恍惚とした笑みを浮かべた。


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夢の始まりは、我が身の滅び
posted by −紡綴者− at 02:12| Comment(11) | 冥滅なる魄淀 〜SS・総〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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